毎年7月後半に公開されるJリーグ個別経営情報開示資料。柏レイソルさんは磐田さんや湘南さんと同じく3月決算のため7月発表分になります。
・2021年度(令和3年度)Jクラブ経営情報開示(公式)
という訳で例年のように見ていきます。
前提
・2022年夏に発表された個別経営情報は2021年度分になります。
・レイソルは3月決算ですので、2021年度=2021年4月~2022年3月までが、決算情報の対象期間です。
・レイソルの2021年は、かなり勝てず苦しいシーズンでした。J1リーグで(15位/20チーム)でした。
・2021年4月~2022年3月までの入場料収入や移籍金、チーム人件費(選手の出入り)が該当します。
・レイソルは物販を加茂商事さんへ委託しているため、物販項目の金額は収入ではありません。
営業収入
・総収入
まずは、グラフをご覧ください。
2021年度の営業収入は、39.06億円でした。過去最多を記録した2020年度の46.13億円から7億円ほどの減収となりました。(それでも収入は歴代3番目の金額です。)引き続きコロナ禍ではありましたが、40億レベルの売上高はキープしたことになります。
2021年度の営業収入を上から順に並べると、川崎(69.82億円)、浦和(68.91億円)、鹿島(66.03億円)、神戸(63.89億円)、名古屋(61.73億円)の5クラブが60億円を超えました。ついでマリノス(52.28億円)、ガンバ(51.79億円)、FC東京(47.72億円)、清水(43.66億円)となり、合計9クラブが40億円を超えています。柏の39.06億円は10番目となっています。
50億円超えクラブ:2019年度8クラブ→2020年度4クラブ→2021年度8クラブ
40億円超えクラブ:2019年度9クラブ→2020年度10クラブ→2021年度9クラブ
30億円超えクラブ:2019年15クラブ→2020年度13クラブ→2021年度15クラブ
2021年度はまだまだ絶賛コロナ禍中の経営数字ですが、上位クラブは苦しみながら2019年レベルに近づいていることがわかります。
・スポンサー収入
スポンサー収入は、2020年度28.93億円から2021年度29.87億円へと0.94億円の増加となりました。毎年引用させてもらっていますが、2017年の意見交換会のコメントを引用します(2017年はスポンサー売上が19.5億円ほどの時代です)
(当時)30億ちょっとの総売上のうち、スポンサー料が大半を占めています。30億のうち13億は日立からいただいているスポンサー料です。その他6億は日立グループが主な相手先となるスポンサーで、当然その他にも地域の中小企業さんからご支援をいただいております。
2017年柏レイソル意見交換会議事録
2010年度から2018年度まで、スポンサー収入はおおむね19億円前後が続いていました。2019年に10年ぶりに数字が動き22.06億円と増えました。この増額は2019年4月26日に日立ビルシステムさんがユニフォームスポンサーになっている件が理由ではないかと推察します。
2020年度は28.93億円と7億円近く金額が増えまして、2021年度はさらに29.87億円と上乗せになっています。きっかけとなる2020年度(2020年4月~2021年3月)に大きく変わったことは2つありました。
①親会社の損失補填が非課税になったこと
プロ野球球団の親会社に認められている優遇がある。年度に生じた額を上限に、球団の欠損金を埋める補填や貸付金が損金と扱われ、非課税となるもので、1954年に国税庁の通達がなされている。今回、これと同じ扱いがJリーグの親会社にも認められた。
Jクラブへの投資追い風? 親会社が損失補填、非課税(日経新聞2020年6月23日)
②Lumadaがユニフォーム胸位置に表示されるようになったこと
2021シーズンより日立ロゴに加え、日立の先進的なデジタル技術を活用したソリューション/サービス/テクノロジーの総称である「Lumada」ロゴも掲出。
2021年02月02日(火)『2021シーズン ユニフォームスポンサー』のお知らせ
です。去年の考察記事では①にのみ言及していたのですが、ヴィッセルさんの個別経営情報を見ると、特別利益の費目にかなりの金額が計上されていることが分かります。おそらくこれが①に該当するのではないかと思います。レイソルの経営情報を眺めると、特別利益ではなく、スポンサー収入が増えていますので②の対価として増額があったと考えるのが正しい気がします。
・入場料収入
入場料収入は2.37億円とシーチケの販売のなかった2020年度1.43億円から0.9億円ほど増収になりました。
入場料収入ですが、2021年度(2021年4月~2022年3月)の入場料収入になります。つまり2022シーズンのシーチケ販売分も対象になるはずです。
2021シーズンはコロナ禍でまだ入場者数に制限がついていましたので、入場料収入は各クラブとも全盛期には遠く及ばない数字となっています。どのくらいの差があるのかというと、全盛期の浦和さんは入場料収入で24億前後稼いでいたものが、6.26億円ほどにまで減っています。観客動員が大きいクラブほどこの費目の影響は大きくなります。
・Jリーグ配分金
Jリーグからの配分金です。こちらは3.99億円と2020年度3.82億円とほぼ同水準です。
2021シーズン柏は低調な成績でしたので、「理念強化配分金」は含まれません。J1各クラブ似たような数字が並んでいますが、最高はマリノスの9.29億円ですので柏と5億円ほどの差となっています。
「理念強化配分金」については過去のゲキサカ記事が良くまとまっているので今年も引用しておきます。
※柏には関係ありませんが、コロナ禍を受けて理念強化配分金は20年度21年度と配分が停止されています。また、下記引用の記事から配分金の総額と降格した際の補償額が変わっています。
降格1シーズン目のみ前年度配分金の80%が保障される。J1からJ2に降格した場合、J1の配分金3.5億円程度の80%、2.8億円の配分金がもらえる。J2の配分金は1.5億円。
今季より3年間のJ1優勝賞金&配分金が正式決定!優勝なら総額22億円(ゲキサカ 2017/2/9)
J1上位クラブが受けることになる「理念強化配分金」は最長3年間の傾斜配分が決定。同年度の審査(※)を通過する必要があることから、支払い開始は翌年になるが、今季の1位チームには18年に10億円、19年に4億円、20年に1.5億円が渡ることになる。
また「理念強化配分金」は年間4位のチームにまで支払われ、今季の2位チームは18年に4億円、19年に2億円、20年に1億円。同3位チームには18年に2億円、19年に1.5億円で20年の配分金はない。同4位のチームは18年の1.8億円のみとなる。この比率は3年間適用される。
・その他収入
柏の収益を左右する最大の要因が「その他収入」です。「その他収入」となっていますが、賞金+移籍金+物販の金額です。
まず、賞金ですが、2021年度は成績が奮わなかったシーズンでしたので、リーグ戦、ルヴァン杯、天皇杯とも賞金はありません。
次に物販です。柏は他クラブと異なり加茂さんにほぼ委託していますので、2021年度も物販費目の計上はわずか100万円です。Jリーグ公式サイトに、「物販収入」および「物販関連費」は、代理店に委託販売しているケース等もあることから、取扱い高総額でのクラブ間比較はできない。と記載があります。数字だけ見てほかのクラブと比較する人が多いので追記しておきます。過去の意見交換会でも下記の説明がありました。
なお、この金額ですがグッズについては、企画、仕入、販売の一連を加茂商事さんへ委託しております。開示されている金額が全ての売上高という訳ではございませんので、他クラブと比較して突出して少ないという訳ではありません。商品化事業をアウトソーシングをすることで、在庫高や販売にかかる諸経費を大きく削減しております。
2020年レイソル意見交換会
で、移籍金です。繰り返しますが、レイソルの2021年度は2021年4月から2022年3月までですので、この間に移籍していった選手の移籍金が計上されます。一般的に受け取り移籍金は移籍したシーズンに一括で計上されます。フリー移籍であれば当然0円です。
2021シーズンは悲しいお別れの多いシーズンでした。シーズン途中に江坂さん、呉屋さん、ペドロ・ハウルさん。シーズン後にクリス、ヒシャ、神谷さん、瀬川くん、仲間さんなどなど多くの選手が移籍されていきました。歴代でもかなり悲しいお別れの多いシーズンでした。
ですが、移籍金を含むその他収入の費目は2.6億円です。2020年度の1/4です。ということは、あまり移籍金のかからない移籍であったと思われます。世の中お金だけではないのですが、悲しいお別れの割に移籍金には繋がらなかったと言うことになります。
ちなみに、キムスンギュさんの移籍金は来年発表になる経営情報に載ってくると思われます。
・経年変化
年度 | 収入 | スポンサー | 入場 | 配分 | その他 | 育成 | 物販 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2021 | 39.06 | 29.87 | 2.37 | 3.99 | 2.60 | 0.22 | 0.01 | |
2020 | 46.13 | 28.93 | 1.43 | 3.82 | 11.77 | 0.17 | 0.01 | |
2019 | 31.40 | 22.06 | 4.14 | 2.08 | 2.38 | 0.22 | 0.52 | J2在籍 |
2018 | 41.50 | 19.68 | 4.49 | 7.08 | 9.33 | 0.25 | 0.67 | |
2017 | 34.54 | 19.54 | 5.54 | 4.66 | 3.77 | 0.26 | 0.77 | |
2016 | 28.74 | 19.29 | 4.35 | 1.85 | 2.34 | 0.30 | 0.61 | |
2015 | 30.19 | 19.28 | 5.18 | 1.86 | 3.53 | 0.34 | ||
2014 | 31.65 | 19.43 | 4.66 | 2.01 | 4.89 | 0.66 | ||
2013 | 34.12 | 19.47 | 6.46 | 2.04 | 5.44 | 0.71 | ||
2012 | 35.51 | 19.89 | 5.76 | 2.34 | 6.78 | 0.74 | スタ改修 | |
2011 | 35.43 | 18.78 | 4.96 | 2.30 | 8.65 | 0.74 | 優勝 | |
2010 | 27.43 | 19.98 | 2.91 | 1.17 | 3.37 | J2在籍 | ||
2009 | 28.59 | 17.63 | 4.74 | 2.09 | 4.13 | |||
2008 | 29.97 | 18.74 | 4.60 | 2.36 | 4.27 | |||
2007 | 31.43 | 19.30 | 4.11 | 2.58 | 5.44 | |||
2006 | 32.44 | 25.02 | 2.84 | 1.39 | 3.19 | J2在籍 | ||
2005 | 38.74 | 17.82 | 5.29 | 2.50 | 13.13 |
営業費用
・総費用
こちらもグラフをご覧ください。
総支出金額は42.75億円と2020年度46.15億円よりは少なくなっています。総費用42.75億円というのは全クラブで11番目です。J1中位でも40億超えの支出になる点は意識をアップデートする必要がありそうです。
では例年のように内訳をみていきます。
・チーム人件費
レイソルの営業費用で大きな割合を占めるのがチーム人件費です。
2021年度 31.05億円(72.6%)
2020年度 28.79億円(62.38%)
2019年度 29.40億円(69.9%)
2018年度 28.06億円(68.0%)
2017年度 23.08億円(67.1%)
2016年度 17.53億円(61.9%)
過去最高、30億円越えの31.05億円がチーム人件費でした。これは相当多いです。J1ではイニエスタさんがいる神戸(50.5億円)は別格として、川崎(36.3億円)に次ぐ3番目です。オルンガ様が置いていってくれたお金をめちゃくちゃいっぱい使ったということです。
レイソルは3月決算ですので、この31.05億円には、
・2021シーズンの選手・スタッフの給料(基本給+勝利給など)
・2021年4月から2022年3月までに加入した選手の移籍金(一部)
などが加わっています。
獲得の主な動きとしては、2021シーズン途中の武藤さんの加入、2022シーズン前のドウグラスさん、小屋松さん、中村慶太さん、岩下さんとなっています。
営業費用におけるチーム人件費の割合は、70%を超え72.6%まで増えました。総支出の70%が選手人件費ってのは高すぎな気がしますが、これも以前の意見交換会で話があったように、支出をできるだけ人件費に割くというのがレイソルの経営戦略なのだそうです。
移籍金の計上については、なかなか纏まっている記事が少ないのですが、元東京Vの強化部の方が書かれた下記の記事がめちゃんこ参考になります。
・その他の支出項目
その他の支出項目は、例年の数字に戻ったものが多くなっています。昨年2020年度に爆増していたチーム運営費8.5億円が元の水準である1.99億円まで減っていました。
チーム運営費には、チームの移動経費、施設や寮関連の費用、代理人(仲介人)手数料などが含まれます。ちなみに、毎年公開されている仲介人手数料一覧がまだJFAサイトで公開されていないので、今年に関しては仲介人手数料がいくらだったかは分かりません。
2020年度の8.5億円ですが、大半はコロナ対策に割いた対策費用(人件費)が入っていたのではないかと思われます。8.5億円ですが、J1クラブのなかでも抜けて高額でした。2位の神戸が6.02億円ですからだいぶ多かったです。完全に推測ですが、2020年にクラスターやっちゃって(かなり報道されてしまったので)、かなりの費用をかけて対策を取ったのではないかと思いますね。
収入や支出の費目の内訳については、過去に浦和さんの決算報告、札幌さんの有価証券報告書からまとめなおしたものを載せておきます。毎年載せていますが。
・経年変化
年度 | 営業費用 | 試合経費 | チーム運営費 | 育成運営費 | チーム人件費 | 販管費 |
---|---|---|---|---|---|---|
21年度 | 42.75 | 1.33 | 1.99 | 0.22 | 31.05 | 8.16 |
20年度 | 46.15 | 1.23 | 8.53 | 0.14 | 28.79 | 7.45 |
19年度 | 42.06 | 1.26 | 3.26 | 0.31 | 29.40 | 7.83 |
18年度 | 41.28 | 1.35 | 3.14 | 0.37 | 28.06 | 8.36 |
17年度 | 34.40 | 1.58 | 1.83 | 0.33 | 23.08 | 7.58 |
16年度 | 28.30 | 1.32 | 1.80 | 0.39 | 17.53 | 7.26 |
15年度 | 30.83 | 1.67 | 2.32 | 0.40 | 18.88 | 7.56 |
14年度 | 31.95 | 1.38 | 2.09 | 0.39 | 20.59 | 7.50 |
13年度 | 33.80 | 1.98 | 2.66 | 0.40 | 21.18 | 7.58 |
12年度 | 35.27 | 1.74 | 2.25 | 0.38 | 20.47 | 10.43 |
11年度 | 33.91 | 1.53 | 2.68 | 0.36 | 19.19 | 10.15 |
10年度 | 26.98 | 7.24 | 14.85 | 4.89 | ||
09年度 | 29.30 | 8.32 | 15.80 | 5.18 | ||
08年度 | 30.48 | 8.43 | 16.94 | 5.11 | ||
07年度 | 31.05 | 9.48 | 16.93 | 4.64 | ||
06年度 | 34.62 | 8.60 | 21.88 | 4.14 | ||
05年度 | 38.58 | 4.60 |
※11年度以前は試合経費、チーム運営費経費、アカデミー運営費の内訳が発表されていません。
※販管費は17年に費目が分かれたので、販売費および一般管理費と物販関連費の合計値です。
収支について
債務超過
2019年度3度目のJ2降格を救ってもらうためにネルシーニョ監督を再招聘しました。無事1年でJ1に復帰となりチームを救ってもらいましたが、10億円の赤字となり貸借対照表を痛めてしまいました。
で、2021年度です。チーム人件費の高騰もあり単年で赤字、累積でも3.6億円の債務超過になってしまいました。レイソルで言えば2度目の降格をした2009年度以来となる債務超過状態です。
債務超過になるとどうなるの?というところですが、Jリーグのライセンスに関わってきます。ただし、現在はコロナ禍の猶予期間中なのでその点は助かっています。おそらく猶予期間を受けての一時的な債務超過のような気がします。
もう少し詳しくみていきます。
Jリーグクラブライセンス制度の財務基準では
・3期連続の当期純損失(赤字)を計上していないこと
・債務超過でないこと
・移籍金や給与の未払いが生じていないこと
が求められています。(厳密にはもう少し細かい基準があります)
コロナ禍を受けて、各クラブ厳しいため2020年度2021年度は特例措置期間となっていました。上記に抵触してもすぐにライセンス失効とはならなかった訳です。ですが、2022年度からは猶予期間に変更となっています。猶予期間中は、
・債務超過額(柏の場合3.6億円)より増えてはならぬ
・新たに債務超過に陥ってはならぬ
・3期連続赤字のカウントを始める(1年目としてカウントする)
と記載があります。ルール上、狙って赤字にできるのは2021年度がラストチャンスだったことになります。どうしても債務超過という言葉のパワーが強いので反応してしまいますけど。
2022年に大きくアカデミー路線に舵を切ったのは、舵を切らざるを得ない財務的な事情もあってのことだったのねということがうかがえます。
いずれにせよ2024年度末までに債務超過を解消している必要があります。おそらくですが、若手に切り替えたところで支出は抑えられるはずなので、2022年度の経営情報は改善されると思います。が、うまくいかなかった時に凄い移籍金を支払ったり高額な年俸を支払ったりして選手を獲ってくるのはしばらくできない(全くできないわけじゃないでしょうけど)ということになります。
そういう意味では、VITORIA精神とアカデミーの融合。何度も言われていることですが、これが少なくともこの2年、債務超過を脱するまでのレイソル喫緊の課題です。
この道を行けばどうなるものか。 危ぶむなかれ、危ぶめば道はなし。 踏み出せばその一足が道となり、その一足が道となる。 迷わず行けよ、行けばわかるさ。
これからも、ずっとここで
というところが2021年度の経営情報を読んでの推察になります。過去の記事や発言録を参考に、自分なり数字をなるべく丁寧に読んでみた解釈になります。
ところで。今年の6月に日立がサンロッカーズを売却することが報じられました。日立バスケ部はレイソルの前身となる日立本社サッカー部より歴史が古く1935年創設です(日立本社サッカー部は1940年創設)。報道によれば2020年から売却先を探していたそうです。
2022年はレイソル30周年イヤーです。これからも柏の地で、ずっと日立台で、ずっと黄色いレイソルを見ていたい。そんなふうに思えた今年の経営情報です。
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